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千葉地方裁判所 昭和53年(行ウ)12号 判決

東京都新宿区新宿四丁目二番八号

原告

花嶋弘子

同都豊島区東池袋四丁目三番五号

花嶋とし子

千葉県習志野市谷津町五丁目一〇四四番地

花嶋孝一

同県印旛郡印西町松崎一一二三番地

花嶋武

同県千葉市祐光一丁目一六番二〇号

花嶋孝幸

同所同番地

右原告花嶋孝幸法定代理人親権者母

兼原告

花嶋ミユキ

右原告ら訴訟代理人弁護士

佐川浩

仲村昭

同市武石町一-五二〇

被告

千葉西税務署長

渡辺茂

右指定代理人

石井宏治

佐藤恭一

高野幸雄

大池忠夫

秋庭武

岩井明広

池田元七

高津吉忠

須藤勉

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

亡花嶋孝の昭和四八年度の所得税につき被告が原告らに対し昭和五二年三月八日付をもってなした更正決定のうち、四三二万五、二〇〇円を超える部分並びに重加算税賦課決定処分の全部を取り消す。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの被相続人亡花嶋孝(以下孝という)は、訴外四谷税務署長に対し、昭和四八年度分の総所得を五四五万一、一六八円、分離短期譲渡所得を七二七万三、四九七円とする所得税の確定申告(以下本件確定申告という)をしたが、同署長は同四九年四月二七日、納付税額を四三二万五、二〇〇円とする更正処分をした(以下当初更正処分という)。

孝は昭和五〇年八月一三日死亡し、被告は孝の相続人である原告らに対し、同五二年三月八日付をもって、昭和四八年度の孝の総所得を五四五万一、一六八円、分離短期譲渡所得を三七二七万三、四九七円、納付税額を二三六九万六、六〇〇円とする更正決定(以下本件更正処分という)並びに重加算税を五八一万一、三〇〇円とする賦課決定(以下本件賦課決定という)をなした(以下本件各処分という)。

2  原告らは本件各処分につき、昭和五二年五月四日、被告に異議の申立をし、同年六月四日これを棄却されたので、同年七月二日国税不服審判所長に審査請求をしたが、同五三年六月二一日これも棄却された。

3  しかし、本件各処分は以下に述べる理由により違法である。

即ち、孝は昭和四八年五月一八日訴外株式会社労働基準調査会(以下調査会という)に対して東京都豊島区巣鴨二丁目二二四二番地二所在の旅館「千景」の建物、営業権、事業用什器備品並びに借地権(以下併せて本件物件という)を譲渡し、その譲渡所得を同人の昭和四八年度の所得として確定申告したが、右物件の所有者は訴外岡城幸次(以下岡城という)であり、昭和四五年一一月二七日付で本件物件の名義を同人から孝に移転したのは岡城の債権者らからの債権取立を免れるための仮装であって、本件物件の売却代金は全て岡城の債務の弁済及び同人の更生資金に充てられ孝には何らの利得もなかった。

4  よって、本件物件の譲渡にかかる所得が孝に属するものとしてなされた本件各処分はいずれも違法であるから、本件更正処分のうち前記確定申告額を越える部分並びに本件賦課決定の各取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実は認める。但し異議申立をした日は昭和五二年五月六日である。

3  同第3項の事実のうち、孝が昭和四八年五月一八日本件物件を調査会に譲渡し、その所得を自己の所得として昭和四八年度分所得税の確定申告をしたこと、本件物件の名義が岡城から孝に移されたこと(但し日時は昭和四五年一一月二六日である)はいずれも認めるが、その余は否認する。

三  被告の主張

本件各処分の根拠は以下に述べるとおりであり、いずれも適法になされたものである。

1  本件確定申告

本件確定申告の申告内容は別表一、二の本件確定申告欄に記載するとおりであり、孝は調査会に対する本件物件の譲渡価額一億〇、八七五万円(内訳、建物価額七、五〇〇万円、敷地借地権価額二、三七五万円、什器備品及び営業権価額一、〇〇〇万円)につき、什器備品、営業権の譲渡所得を総合課税の短期譲渡所得(以下総合短期譲渡所得という)、建物、借地権の譲渡所得を分離課税の短期譲渡所得(以下分離短期譲渡所得という)として同人の事業所得等と併せて確定申告している(なお、孝は当時東京都新宿区新宿四-二-八を納税地としていた)。

2  当初更正処分

四谷税務署長は孝の申告で分離短期譲渡所得七二七万三、〇〇〇円に対する税額が三三〇万六、九三〇円とされていた点につき、租税特別措置法(以下措置法という)三二条一項二号により算出した三五二万六、九三〇円とし、その差額二二万円を孝の申告納税額四一〇万五、二〇〇円に加算し、同人の納付税額を四三二万五、二〇〇円とした(国税通則法二四条、以下通則法という。なお、別表三参照)。

3  本件更正処分

(1) ところが、その後の調査により、分離短期譲渡所得における譲渡費用として申告された東京都新宿区戸塚町二-一二九星弘商事に対する売買手数料三、〇〇〇万円についてはその支払の事実がなく、孝が虚偽の領収書を作成して分離短期譲渡所得を過少申告したことが判明した。

(2) そこで、孝の住所地である千葉県習志野市谷津町五-一〇四四を管轄する被告は孝の死亡により同人の国税納付義務を承継(通則法五条)した原告らに対し、昭和五二年三月八日付で右三、〇〇〇万円の譲渡費用を否認し、通則法二六条の規定により孝の分離短期譲渡所得を三、七二七万三、四九七円、これに対する税額二、二八九万八、二六〇円(措置法三二条一項二号)とする本件更正処分をした(別表四参照)。

4  総合短期譲渡所得について

(1) 孝は、本件物件のうち、什器備品及び営業権を昭和四八年五月一八日に調査会へ一、〇〇〇万円で譲渡しているが、これは所得税法三三条一項に規定する資産の譲渡に当たり、これによって得た所得は譲渡所得となる。

また、孝が右各資産を取得した日は昭和四五年一一月二六日であり、資産の取得の日以後五年以内に譲渡しているから、この譲渡による所得は同法三三条三項一号(短期譲渡所得)に該当し、同項本文により収入金額から取得費、譲渡に要した費用及び譲渡所得の特別控除額(同条四項により四〇万円)を控除した金額が短期譲渡所得金額となる。

(2) 什器備品の取得金額は、孝が四谷税務署へ提出した昭和四六年分所得税青色申告決算書によると七六〇万六、〇〇〇円と記載されている。これは昭和四五年一一月二六日岡城から売買により建物を四、七八三万円で取得した中の什器備品の取得価額を七六〇万六、〇〇〇円としたもので、テレビ、ジュークボックス、冷蔵庫等一三品目について、それぞれ取得価額を付して減価償却を行っている。したがって、総合短期譲渡所得の計算上、取得費となる金額は、昭和四七年に取得した什器備品を含め、取得時から譲渡時までの減価償却費を控除した未償却残高である四六二万三、四四八円となる(所得税法三八条二項)。

なお、営業権については取得価額を付しておらず、また譲渡に要した費用もない。

(3) 以上により、総合短期譲渡所得は、収入金額一、〇〇〇万円から取得費四六二万三、四四八円及び特別控除額四〇万円を控除した四九七万六、五五二円となる。

5  分離短期譲渡所得について

(1) 孝は、昭和四八年五月一八日に建物を七、五〇〇万円で、また建物の敷地についての借地権を二、三七五万円(底地の所有者である佐藤元一郎が調査会に四、七五〇万円で売却し、孝は同人から借地権相当分二、三七五万円を受領した)でそれぞれ調査会へ譲渡しているが、同人がこれらの資産を取得した日は同四五年一一月二六日であるから、これらの資産の譲渡による所得は措置法三二条の規定により分離短期譲渡所得となる。

(2) 建物及びその敷地である借地権は、昭和四五年一一月二六日に岡城から四、〇二二万四、〇〇〇円(売買契約書には建物を四、七八三万円で売買する旨記載されているが、その内容は建物、借地権及び什器備品の売買であり、4において述べたとおり什器備品の取得価額は七六〇万六、〇〇〇円であるから建物及び借地権の取得価額はこれを控除した四、〇二二万四、〇〇〇円となる。)で取得したものであるが、昭和四六年分青色申告決算書には建物四、〇二二万四、〇〇〇円と記載されているのみで借地権の価額を付していない(なお孝は本件確定申告において借地権四、〇二二万四、〇〇〇円としているがこれは誤りである)。したがって建物については取得価額から所有期間の減価償却費を控除した金額が取得費となる(所得税法三八条二項)ので四、〇二二万四、〇〇〇円を建物と借地権の取得価額に配分して取得費を算出しなければならない。そこで本件譲渡の建物及び借地権についてはその取得価額がそれぞれいくらであるかの区分が取得時に明らかでないので、その配分は取得時である昭和四五年における建物と借地権の時価の割合によって行うこととした。

まず相続税法二二条に関する相続税財産評価通達(昭和三九年直資五六号)によって取得価額に対する建物及び借地権の価額の占める割合を計算すると建物が一、四九四万九、一〇〇円(昭和四五年の固定資産税評価額をもって相続税評価額としている)、借地権が六四七万四、五七三円(面積五四・〇九坪に、更地の坪当たり相続税評価額一七万一、〇〇〇円と借地権割合七〇パーセントを乗じて算定したもの)となり、この合計額二、一四二万三、六七三円に占めるそれぞれの割合は建物六九・七八パーセント(14,949,100÷21,423,673)、借地権三〇・二二パーセント(6,474,573÷21,423,673)となる。

次に建物と借地権の取得価額の合計額四、〇二二万四、〇〇〇円をこの割合でそれぞれ配分すると建物の取得価額は二、八〇六万八、三〇七円、借地権の取得価額は一、二一五万五、六九三円となる。

そこで本件譲渡における建物の取得費は建物の取得価額二、八〇六万八、三〇七円から所有期間二年六か月の減価償却費一二六万三、〇七三円(定額法、耐用年数五〇年)を差し引いた二、六八〇万五、二三四円となる。

この結果、建物及び借地権の取得費の合計額は三、八九六万〇、九二七円(26,805,234+12,155,693)である。

なお孝は昭和四七年九月に建物の増改築を行い一、四〇八万一、〇五六円を支出したとして、減価償却費一四万三、六三六円を控除した一、三九三万七、四三〇円を建物の取得費に算入して申告しているが右建物の増改築の事実はなく、またその代金の支払事実も認められない。

(3) 孝が譲渡費用として収入金額から控除した星弘商事に対する売買手数料三、〇〇〇万円はその支払事実が認められない(なお、売買手数料は、買主である調査会が新宿区下落合一-三-二〇神ヤ不動産こと神谷武夫に三七〇万円を支払っている)。

(4) 従って孝の分離短期譲渡所得の金額は収入金額(建物及び借地権の譲渡代金)九、八七五万円から取得費三、八九六万〇、九二七円を控除した五、九七八万九、〇七三円となる。

6  以上のとおり、孝の総合短期譲渡所得は四九七万六、五五二円、分離短期譲渡所得は五、九七八万九、〇七三円となり、いずれも再更正処分の認定額を上回る。

7  本件物件の帰属

孝は岡城から本件物件を買受けるにつき一、六五〇万円を同人に支払い、その後自ら旅館「千景」の経営に当ってきたもので、旅館業法に基づく許可等を自己名義で受け、その事業所得等を自己の所得として申告してきたばかりか、本件物件を調査会に譲渡することも自らこれを行い、本件物件の売却代金もほとんど孝ないし同人経営の花嶋興産株式会社(以下花嶋興産という)の債務弁済等に充当している。

また岡城は同人所有の旅館「榛名館」及び宿泊所「新生の家」を昭和四六年中に第三者に売却しており、原告らの主張するような仮装の売買をする事情はなかったし、原告らの主張する岡城の債務は右売買代金をもって全部弁済されているので、本件物件の売却代金をもって岡城の債務の弁済等に充てる必要もなかった。

以上のとおり、本件物件が岡城から孝に譲渡されたことは明らかである。

8  本件賦課決定

前記のとおり孝は架空の売買手数料三〇〇〇万円を申告して課税標準及び税額の基礎となるべき事実を仮装した。

そこで被告は通則法六八条一項に基づき、納付すべき所得税額一、九三七万一、〇〇〇円(端数処理済)に一〇〇分の三〇を乗じて算出した五八一万一、三〇〇円の重加算税賦課決定を孝の国税納付義務を承継した原告らに対してなしたものである。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張第1項のうち本件物件の譲渡所得以外の申告内容については争わない。

2  同第2項は認める。

3  同第3項中(1)は不知、(2)は原告らが孝の納税義務を承継したことは認める。

4  同第4項中(1)は争い、(2)、(3)は不知

5  同第5項中(1)は争い、(2)、(3)は不知

6  同第6項は争う。

7  同第7項は争う。孝の事業所得の申告は本件に関するものではなく、また花嶋興産の債務は岡城の債務であり、孝の普通預金口座に入金された金員も岡城の債務弁済に充てられている。

8  同第8項は不知

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし五、第五ないし第八号証、第九号証の一ないし七、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第二一号証

2  証人岡城幸次

3  乙第一ないし第一八号証、第二四ないし第二九号証、第三一、第三二号証、第三五号証の成立(写については原本の存在とその成立)はいずれも不知、その余の乙号各証の成立(写については前同)はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一ないし第三二号証、第三三、三四号証の各一、二、第三五ないし第三七号証、第三八号証の一、二、第三九号証の一ないし五、第四〇号証の一ないし七、第四一号証の一ないし三、第四二号証、第四三号証の一ないし一三、第四四号証の一ないし一〇、第四五号証の一ないし三

2  証人舟木一男、同高嶋静夫、同古田順伸

3  甲第一、二号証、第一〇号証の一ないし三、第一五号証、第一八ないし第二一号証の成立はいずれも認めるが、その余の甲号各証の成立はいずれも不知

理由

一  請求原因第1、2項(但し、異議申立の日を除く)の事実(本件各処分の経緯等)は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分に違法事由があるか否かについて判断する。

1  本件物件の譲渡所得の帰属

証人岡城幸次の証言により真正に成立したものと認められる乙第一六ないし第一八号証によれば、孝が昭和四五年一一月二六日所有者である岡城から本件物件を四七八三万円で買受けた事実を認めることができるところ、原告らは右売買が岡城の債権者らからの債権取立を免れるための仮装である旨主張し、成立に争いのない甲第二一号証及び証人岡城幸次の証言中には、これに符合する部分が存する。

しかしながら、前掲甲第二一号証、乙第一六号証、成立に争いのない甲第一、二号証、第一五証、乙第二二、二三号証、第三三、三四号証の各一、二、第三六号証、第三八号証の一、二、第三九号証の一ないし五、第四〇号証の一ないし七、第四一号証の一ないし三、第四二号証、第四三号証の一ないし一三、第四四号証の一ないし一〇、証人古田順伸の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一ないし第一二号証、第一四、一五号証、第三五号証、証人舟木一男の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一三号証、第二四ないし第二九号証並びに証人岡城幸次の証言(同証言及び甲第二一号証のうち後記認定に反する部分を除く)によれば、

(1)  岡城は孝に本件物件を譲り渡した後も旅館「千景」の四階部分に居住して同旅館の経営に事実上携っていたが、右旅館の営業名義や料理飲食等消費税の特別徴収義務者はいずれも孝に変更され、同旅館に関する事業所得等の申告も全て孝が自己名義でこれを行っていること、

(2)  また、昭和四八年五月一八日には本件物件を一億〇八七五万円(什器備品、営業権一、〇〇〇万円、建物七、五〇〇万円、借地権二、三七五万円)で調査会に売却しているが、孝はその交渉から合意に至るまで自ら関与して自己名義で契約しているのみならず、売買代金も全額受領し、岡城との間の前記売買契約において孝の引受けるべき債務とされた岡城の大同信用金庫に対する債務を弁済した外は自己名義の普通預金口座に入金し、あるいは自己の関係する花嶋興産の債務弁済に充当し、岡城に金員の交付をしていないこと

以上の事実を認めることができ、右事実に本件物件を調査会に譲渡したことに伴う所得を孝が自己の所得として確定申告している事実(この事実は当事者間に争いがない)を照らし合せると、岡城と孝との間になされた本件物件の前記売買が仮装である旨の甲第二一号証及び証人岡城幸次の証言は信用できず、右売買は真実なされたものと認めるのが相当である。

なお、原告らは本件物件を調査会に売却した代金は岡城の債務の弁済等に充てられた旨主張し、その証拠として甲第一号証以下の書証を提出しているが、右債務の一部は岡城と孝との前記売買契約に孝が引受けるべきものとして記載のあるもので孝において当然弁済すべきものであるし、その他の債務についても、証人岡城幸次の証言等に照らし、その大部分は本件物件を調査会に売却した当時既に弁済により消滅していたものと認められるから、前認定を左右するものではなく、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

以上のとおり、本件物件を調査会に譲渡した当時の権利者は孝であり、右譲渡による所得は同人に帰属するものと認められる。

2  課税の手続及び根拠

(1)  被告の主張第1項中本件物件の譲渡所得以外の申告内容、及び第3項(2)の原告らが孝の死亡によりその納税義務を承継したことは当事者間に争いがなく、証人舟木一男の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第二七号証、第二九号証、同証言により本件確定申告にあたり孝が提出した領収書と認められる乙第三一、三二号証を総合すれば、被告の主張第1項の本件物件の譲渡所得についての確定申告の事実及び同第三項(1)の売買手数料三、〇〇〇万円計上による過少申告の事実を認めることができる。

なお孝の死亡当時の住所が千葉県習志野市谷津町五-一〇四四であって被告がこれを管轄していることは弁論の全趣旨から明らかである。

(2)  総合短期譲渡所得について

(一) 孝が昭和四五年一一月二六日岡城から本件物件を四、七八三万円で買受け、このうち什器備品、営業権を同四八年五月一八日調査会に一、〇〇〇万円で譲渡したことは前記のとおりである。

右什器備品、営業権の譲渡は所得税法三三条一項の資産の譲渡にあたるが、資産取得の日から五年以内の譲渡であるから、短期譲渡所得(同条三項一号)として、収入金額から取得費、譲渡に要した費用及び譲渡所得の特別控除(同条四項により四〇万円)を控除した金額が所得となる(同条三項)。

(二) 什器備品の取得金額は孝が四谷税務署に提出した昭和四六年分所得税青色申告決算書(前掲乙第二四号証)によれば七六〇万六、〇〇〇円と推認される。即ち、同決算書によれば本件物件のうち減価償却を施す什器備品の合計金額は七四八万六、〇〇〇円であるが、これに減価償却を施さない電話加入権一二万円を加えると七六〇万六、〇〇〇円となる。なお、本件物件の取得額四、七八三万円から建物価額(後記のとおり借地権も含まれる)四、〇二二万四、〇〇〇円を控除しても右金額と一致する。

そこで、前掲乙第二五号証によれば什器備品のうち煙感知器は昭和四七年九月取得、布団は同年二月取得であることが認められ、その余は昭和四五年一一月に取得したので、各取得時から譲渡時までの保有期間に応じて減価償却費を控除した残存額(取得費)は、前掲乙第二四、二五号証によって認められる各物品取得価額に基づき所得税法三八条二項、四九条一項括弧内、同施行令一二五条、六条、一二〇条一項一号イ、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年大蔵省令一五号)一条、四条、五条、施行令一三二条三項によって定額法を適用して算出すると次のとおり四六二万三、四四八円となる。算式次のとおり7,606,000+74,000+90,000-3,146,552=4,623,448なお右償却額三一四万六、五五二円の算出方法は別表五記載のとおりである。

営業権の取得費は右両決算書に記載がなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(三) 譲渡に要した費用については、これを認めるに足りる証拠がない。

(四) よって、孝の総合短期譲渡所得は収入金一、〇〇〇万円から取得費四六二万三、四四八円及び特別控除額四〇万円を控除した四九七万六、五五二円となり、本件更正処分における認定額を上回る。

(3)  分離短期譲渡所得について

(一) 孝が本件物件を同四五年一一月二六日に取得し昭和四八年五月一八日これを調査会に譲渡したことは前記のとおりであるから、本件建物及び借地権の譲渡による所得は措置法三二条により分離短期譲渡所得となる。

(二) 本件建物及び借地権の取得価額は本件物件の取得価額四、七八三万円から什器備品の取得価額七六〇万六、〇〇〇円を差引いた四、〇二二万四、〇〇〇円と推認されるものの、建物と借地権のそれぞれの価額が明らかでなく、建物については所得税法三八条二項により減価償却費の控除が必要となるから、右金額を建物価額と借地権価額とに区分しなければならない。そこでその配分は取得時である昭和四五年における建物と借地権の時価の割合によって行うべく右時価の算定方法については、相続税法二二条に関する相続税財産評価通達(昭和三九年直資五六号)が合理性を有するのでこれによって取得価額に対する建物及び借地権の価額の占める割合を計算する。成立に争いのない乙第一九号証、第四五号証の一ないし三、証人舟木一男の証言によって成立の認められる乙第九号証、第一三号証によれば建物が一、四九四万九、一〇〇円(昭和四五年の固定資産税評価額)、借地権が六四七万四、五七三円(面積五四・〇九坪に更地の坪当り相続税評価額一七万一、〇〇〇円と借地権割合七〇パーセントを乗じて算定したもの)となるので、この合計額二、一四二万三、六七三円に占めるそれぞれの割合は、建物が六九・七八パーセント(14,949,100÷21,423,673)、借地権三〇・二二パーセント(6,474,573÷21,423,673)であり、建物と借地権の取得価額の合計額四、〇二二万四、〇〇〇円をこの割合でそれぞれ配分すると、建物の取得価額は二、八〇六万八、三〇七円、借地権の取得額は一、二一五万五、六九三円となる。

そこで、本件譲渡における建物の取得費は建物の取得額二、八〇六万八、三〇七円、所有期間二年六箇月に基づき前記(2)(二)記載法令(但し減価償却資産の耐用年数等に関する省令については昭和五三年大蔵省令三七号改正前昭四一蔵令三七号)を適用して耐用年数五〇年、定額法によって算出される減価償却費一二六万三、〇七三円を差し引いた二、六八〇万五、二三四円となる。右減価償却費の算式次のとおり

28,068,307×0.9×0.02×2.5=1,263,073

従って建物の取得費二、六八〇万五、二三四円と借地権のそれ一、二一五万五、六九三円との合計額は三、八九六万〇、九二七円となる。

(三) 孝は本件確定申告において昭和四七年九月に右建物の増改築を行い、一、四〇八万一、〇五六円を支出したとして減価償却費を控除した一、三九三万七、四三〇円を建物の取得費として申告(前掲乙第二九号証)しているが、成立に争いのない乙第三〇号証によれば右増改築の事実はなかったことが明らかであるし、星弘商事に対する売買手数料三、〇〇〇万円の支払の事実のないことも前認定のとおりである。

(四) よって、孝の分離短期譲渡所得は収入金額九、八七五万円(建物七、五〇〇万円、借地権二、三七五万円)から取得費三、八九六万〇、九二七円を控除した五、九七八万九、〇七三円となり、本件更正処分における認定額を上回る。

(4)  以上のとおり本件更正処分における所得の認定は適法であるところ、右処分における納付税額の算出過程にも違法の点は見出せないから、結局右処分は適法なものと言うべきである。

(5)  本件賦課決定について

孝が本件分離短期譲渡所得の申告にあたり、譲渡費用として支払の事実のない星弘商事に対する売買手数料三、〇〇〇万円を計上して過少申告し、虚偽の領収書を提出してこれを仮装したことは前認定のとおりであり、右は通則法六八条一項により重加算税賦課の対象となるところ、被告の主張する賦課内容は正当なものとして是認できる。

三  以上のとおり、被告のなした本件各処分はいずれも適法であり、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝山崇 裁判官橋本和夫、同宮岡章は転補のため、署名押印できない。裁判長裁判官 朝山崇)

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

別表三

分離短期譲渡所得の税額計算

〈省略〉

(注) 1. 税額の計算は、租税特別措置法32条1項2号、同法施行令21条2項による。

2. 〈B〉当初更正の〈5〉欄は、申告額に40万円の計算誤りがあったので加算したものである。

別表四

分離短期譲渡所得の税額計算

〈省略〉

別表五

什器備品の取得費

〈省略〉

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